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自衛隊派遣は孤立の道 加藤周一講演会に700人
イラク戦争と日本
私たちの希望はどこにあるのか
◆評論家加藤周一氏の講演会が去る2月7日(土)、岐阜市のぱるるプラザで開催されました。主催は2004ピーストークデイ実行委員会(岐阜県教組など23団体で組織)。会場は「知の巨人」加藤さんの話を聞こうと詰めかけた人たちで立ち見が出るほど。20世紀の歴史から説き起こし、国際社会の中の日本の位置づけ、21世紀の日本の進むべき道について、幅広い視点から緻密に分析した加藤さんの主張に、参加者は最後まで熱心に聞き入っていました。

◆講演会終了後、自衛隊のイラク派遣に反対するパレードが行われ、参加者は「いまこそ平和憲法を守ろう」「私たちは自衛隊員が人殺しになることも殺されることも望まない」などの声をあげて、岐阜駅から金公園までを歩きました。

■講演要旨■

戦争の世紀
 20世紀は日本にとって戦争の世紀だ。
 前半は、日露戦争で始まって、第一次世界大戦、第二次世界大戦で終わった。
 第二次世界大戦になると、総力戦になり市民がたくさん死んでいる。死傷者が急に増えた。19世紀にはなかった戦争だ。
 第二次世界大戦の後、戦争の性質はまた変わった。朝鮮戦争は組織された軍隊間の戦争で、市民を巻きこんでのものだったが、ヴェトナム戦争では戦争の中心が移った。米軍対抵抗するヴェトナム人=ゲリラになった。
 実は、(日中戦争の時の)日本と中国の戦いも日本軍対便衣隊という、国軍対国軍とは違う形になっていた。ヴェトナム戦争でもそういうかたちになっていった。
 今のイラクでも、ゲリラはどこにいるかわからない。小さい武器も、そのありかはなかなかわからない。一方で米軍はわかりやすい。
 植民地の解放・独立というのも20世紀の大きな特徴だ。植民地の独立という場合、非植民地の国に欧米人の国はない。日本人は植民地にされてはたまらないと、『脱亜入欧』を掲げて白人の枠に入り込んだ。
 その20世紀、戦争でたくさんの一般市民が殺された。ヴェトナム戦争をすすめたマクナマラは、その回想録の中で「1億6千万人の人が死んだ20世紀の戦争はまずかった」と言っている。今になって「ヴェトナム戦争は悪かった」とも言っている。

イラク攻撃の誤り
 大量破壊兵器がイラクにあり、それがテロリストに渡るとアメリカの安全が脅かされる。そこでこれが使われるより前にイラクを征伐しようということで、イラク攻撃がはじめられた。国連調査団のブリックス氏は、イラクに大量破壊兵器があるのかないのかわからないままに、アメリカは攻撃してしまったといっている。米軍が送った調査団のデビッド=ケイ氏も「いくら探しても出てこなかった」と言っているが、これは大きい。
 それなのに、アメリカは往生際が悪い。ラムズフェルドは、「ないという証拠も見つかっていないからイラクを攻撃する」といっている。小泉も、同じようなことを国会でいっている。
 否定の命題を証明するのは非常に難しい。これは論理学の初歩で、そんなことは中世からわかっている。だから、非常に危ない詐術だ。だからこそ、「罪を犯さなかった」ということを証明する義務はない。
 イラクの民主化という論拠も、大急ぎでしなくてはならないというものではない。だいたいが何十年も前から民主的でないということはわかっていたはずだ。ましてアメリカは以前イラクを援助している。イラクはアメリカの脅威ではないわけで、今すぐ爆撃しなくてはならないということはなかった。

泥沼化のイラク戦争
 小泉は、自衛隊は「戦闘地域へ行くのではない」と言っているのだが、誰に話しているかと言えば、日本人に話している。もしアラビア語に翻訳されるなら、この言葉に責任は持てない。命がけで戦っている人がいる中に、戦闘地域と非戦闘地域云々と言っているような余裕はない。装甲車と戦車の違いがどうのこうのと言っても、要は『参戦』だ。日本人に説得しても無駄だ。
 20世紀のままで21世紀に入ってしまったが、これはうまくない。イラクの戦争はこのままいくと泥沼化してしまう。上海―南京―中国 点と線の支配だった。それ以外のところにはゲリラがいくらでもいた。どこにいるのかわからない。誰が撃って、誰が撃たれるのかわからない。だから、村ごと焼き払う。だから普通の市民の死者が増える。5人のゲリラを殺せばゲリラはまた増えて10人になる。残された家族がゲリラになる。普通の軍隊とは違うのだ。だからこそ皆殺ししかない。
 ヴェトナム戦争でも同じだ。目標(とされる兵士)が多くなると死傷者も増える、どんどん派兵して、犠牲者ばかりが増えた。泥沼だ。ゲリラの数がらせん状にどんどん増えていった。
 日本軍は、ついに中国をコントロールできなかった。1937年以降、軍と軍の衝突には勝つが、ゲリラが増えて抵抗が続いた。これらのことを考えると、アメリカは負けるかも知れない。
 日本の参戦は、法的正当化というよりも、政治的愚行だ。日本の国益に反する。復興に貢献したいのなら、戦争が済んでから、NGOなり、武装しない技術者が行けば良い。戦争中に行ってもたいしたことはできない。

日本の進む道は
 日本は、もっと長い目で見て、どんなことが必要かといった根本的な問題を考えなくてはならない。ドイツは、世界と関わっていく前にヨーロッパとのつながりを大切にし、それから世界のことを考えていった。
 日本もそうすべきだ。いきなりグローバルというよりも、中国や朝鮮半島の国との歴史的問題を解決するべきだ。この地域の大衆感情はまだ解けていない。戦後50年を無駄にしてきた。独仏関係のような関係はできていない。ましてや朝鮮半島との関係は、ドイツとポーランドとの関係のようにはなっていない。
 ドイツでは、ポーランド人の歴史家にドイツ人の歴史家が加わって、歴史教科書の記述に関する勧告を出している。このようなことが日韓関係でできているだろうか。これがないと「世界に貢献」なんてできっこない。日本―韓国・北朝鮮―中国の関係がちゃんとできてないのは、日本だけの責任ではないだろうが、問題だ。ドイツ人はこれに五十年かけたんだから。
 憲法は国連憲章と似ているのだから、日本国憲法の精神を生かすことが大切だ。生かさなければ中国・朝鮮半島の人々の猜疑心を解くことはできないだろう。たくさんの曲折を経て、憲法の精神を守る。これをちゃんとやれば、そして50年たてば、外国の言うことに盲従しないで、独立できるでしょう。
 ただ、孤立してはだめで、中国・韓国・北朝鮮との関係を調整することが非常に大事だ。もういっぺん戦争したらおわり、21世紀に入り、失敗をはっきりと認めて、東北アジアとの関係をちゃんとすることが大切だ。それには、東北アジアを平和にすることもできずに、中東の平和作りなんてできない。
 そして、東北アジアを平和にすることができてはじめて、中東の平和の実現に向けて取り組むことが出来るだろう。

■参加者の声から■

◆歴史を正確につかみ、イラク戦争がどんなものであるか、小泉首相の言葉がいかにまやかしであるか、ユーモアを交えたお話で、大変よく分かりました。(京都府・Mさん)
◆友人のない国・日本が、さらに友人をなくそうとする行為をする。加藤先生の話を聞くと、いつも日本人であることが恥ずかしくなるが、恥ずかしくない日本人もいることを、世界にアピールしたい。(揖斐川町・Yさん)
◆人の命の値打ちは決められない。子どもは何も罪を犯していないのに犠牲になる・・・。身に沁みて聞きました。あらゆる問題の最悪の解決は戦争だということが、胸におちました。(各務原市・Nさん)
●主催:2004ピーストークディ実行委員会
連絡先:岐阜市美江寺町2−1・教育会館内
058−266−5252(岐阜教組)
info@gifukyoso.org
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