今さら著者紹介も不要な加藤周一さんの登場です.健筆を揮われて
いる驚異的な長期連載「夕陽妄語」(朝日新聞)を毎月愛読するファンも多いことでしょう.芸術から政治まで――藤田嗣二から愛国心教育まで――,その力強
い筆によって鏡に映しだされる日本の姿は,そこに暮らす私たちにいつもある種の衝撃を与えます.
本書では文学作品や絵画作品などが数多く参照されますが,焦点はシンプルに2つ,時間と空間です.日本文化の特徴として個別に論究されてきた諸現象(短
詩型の嗜好,アシンメトリーの美など)が,この2つの軸に貫かれることで,さらにヨーロッパや中国との鮮やかな比較によって,一層くっきりとその本質的な
意味を浮かび上がらせてくるのです.そしてなによりズシリと読む人の胸に響くのは,この文化論の向かう先が,まさに今の日本の現実そのものであることで
す.
著者が長らく構想してきた日本文化論の集大成として久しぶりの書き下ろしとなった本書は,美学と思想史の角度から日本の近代以降の歩みを再考し,今日の日本,そしてわれわれ自身を相対化するために必読の一冊です. |